【ヤコビアンに絶対値が付く理由(重積分)】

 

ヤコビアンが、微小面積要素の拡大率を表していることなどは、

このようなサイトにいくらでも載っている。

それでもイマイチ納得いかない、という方向けに書いた。

つまり、ここで徹底的に考えたいことは、

“なぜヤコビアンに絶対値がつくのか?”

である。

 

これは、重積分が、高校で習う置換積分と違い、

“積分の向き”の概念を捨ててしまった

ことと関係している。

このことは他のサイトにも書いてあるのだが、自分自身、読んでもサッパリ意味がわからなかったので、詳しく説明しよう。

実際、この言葉がキモである。

高校で習う置換積分には絶対値がつかない理由も、すぐにわかるだろう。

 

まず重積分の変数変換でヤコビアンが使える条件を整理しよう。

つまり、

 

変数変換\( (u=u(x,y),v=x(x,y))\)が

1対1対応(全単射)かつ、\( C^1\)級

 

直観的には、”なめらかに積分範囲をグニャグニャ曲げる”ような感覚である。

まず、粘土にペンで、適当な範囲をグルっと囲むことを想像しよう。

この時、ギザギザでも、たくさん囲みまくっても構わない。

囲んだ中にもう一回曲線を描いても良い。

つまり、領域\(D\)を囲む曲線\(\partial D\)の滑らかさや、弧状連結性、単連結性は問わない。穴をあけた分だけ引いたり、たくさん囲んだ分だけ足せばよいからである。

 

そして粘土を折り曲げたりせずに、力を加えて押しつぶしたり、逆に引き延ばしたりしてみよう。

最初にペンで描いた領域は、変形しているはずである。

 

まあ、とにかく、”性質の良い変数変換”ぐらいに思っておこう。

これらの条件は後で使うので、頭の片隅にとっておいてほしい。

では、具体的に計算してみよう。

 

$$u=-x,v=y$$

の変数変換を考え、\(f(x,y)=1\)を積分しよう。

直観的には、透明な粘土に描いた長方形を、粘土を裏返して見るようなものである。

 

この変数変換は1対1対応(全単射)なので、重積分でヤコビアンが使える条件に合う。

積分範囲は\(0\leq x \leq a,0 \leq y \leq b \)とする。

要は、長方形の面積を、いろんな角度で眺めてみようというわけだ。

普通に考えれば、

$$I=\int_0^adx\int_0^bdy=ab$$

である。これに上の変数変換を施すため、ヤコビアンを計算すると、

$$|J|=|\frac{\partial u}{\partial x} \frac{\partial v}{\partial y}-\frac{\partial u}{\partial y} \frac{\partial v}{\partial x}|=|-1\times 1-0\times 0 |=1$$

であるから、

$$dxdy=dudv$$

である。

こうすると、積分範囲は\(x=0のときu=0,x=aのときu=-aだから…\)

 

$$I=\int_0^{-a} du\int_0^b dv=-ab$$

 

アレ?マイナスがつくやないかーい!

 

となるのだが、実は、積分範囲は\(x=0 \)のとき…の考え方に問題がある!

重積分は、あくまで何らかの形で積分する範囲を指定するものであって、積分する向きは指定しないのである。つまり、

\(u \)についての積分範囲は、\(x=0のときu=0で、x=aのときu=-aだから…\)ではなく、

\(-a\leq u \leq 0,0\leq v \leq b\)という空間上(この場合は平面)の範囲に、\( (x,y)\)で指定された積分範囲からグニャグニャ曲がって(この場合は線形変換だが)写された

と考えるのである。

この考え方だと、\(0\leq u \leq -a\)とはならないから、長方形の面積を重積分で考えても、高校時代のように\(x\)のみについての変数変換(置換積分)とみても、ちゃんと答えが合うのである。

つまり、ヤコビアンが負の時には、置換積分で考えたときの積分範囲の正負が、重積分で変数変換した後の積分範囲とは逆転するので、ヤコビアンが正の時と合わせて、場合分けしなくていいようにまとめて絶対値をつけているのである。

 

また、重積分において、\(x,y\mapsto u,v\) の変数変換は、1対1写像を仮定しているので、ヤコビアンの正負は常に変わらないことを意識してほしい。

もし正負が入れ替わるなら、\( (u=u(x,y),v=v(x,y)) \)は\( (x,y) \) に対して\( C^1 \)級であったから、(重積分の変数変換でヤコビアンが使える条件)

$$(\frac{\partial u}{\partial x},\frac{\partial v}{\partial x} )\times (\frac{\partial u}{\partial y},\frac{\partial v}{\partial y})=0$$

となる瞬間\( (x,y) \)が存在する。

つまり、ヤコビアン\( J=0 \)となる点の十分小さい近傍で\((x,y) と(u,v)\)が 1対1写像でなくなってしまうからである。

ペンで描いた領域内の粘土をつまんで、無理やり引き延ばして折り返し、くっつけてしまうような感覚である。

 

自分で\((x,y)\)平面上のある一点に、\( (\frac{\partial u}{\partial x},\frac{\partial v}{\partial x} ) \)と\( (\frac{\partial u}{\partial y},\frac{\partial v}{\partial y}) \)が垂直になるようにベクトルを描いて見てほしい。

\( (\frac{\partial u}{\partial x},\frac{\partial v}{\partial x} ) \)と\( (\frac{\partial u}{\partial y},\frac{\partial v}{\partial y}) \)は、粘土を引き延ばした方向である。

さらに、\( (x,y) \)から微小に\((-\Delta x,-\Delta y) \)と\( (\Delta x,\Delta y)\)だけずれた2つの点にそれぞれ\(90^\circ \)より開いたベクトルの組と、閉じたベクトルの組を描けば、ピンとくるだろう。

コメントする